次男には悪いことをした

私には二人の息子がいる。だが、すでに二人とも三十路で、独立している。次男がまだ幼かったころの話だ。妻が用事で家を、空けるという日曜日。『せっかくの休日に子守かよ!』僕は恨めしそうな面持ちで、妻を送り出したあと、ゴロンと横になってテレビを観ていた。はじめは子供達に気をかけていたのだが、自然と睡魔に負けたようだ。突然、火が燃え上がったかのような泣き声が、和室から聞こえてきた。その狂ったような泣き声の主は次男だった。飛び起きた僕は、尋常でないその泣き声に、身震いしながら和室に急いだ。しかし幼い長男の説明では、まったく要領が得なかった。次男の瞼から滴る鮮血にたじろぎながら、大まかな状況判断をした。どうも、敷居に躓き座敷机の角で瞼を切ったようだった。僕は次男を抱き上げ、タオルで止血しながら119番を回した。5分ぐらいしてか、救急車のサイレンが、わが家の前で止まった。「かかりつけの病院はありますか?」救急隊員の冷静な質問に、僕はおどおどするばかりだった。やがて、救急車は最寄りの救急病院へ、次男と僕を搬送してくれた。そんなときでも、次男自身は意外と冷静だった。「アッ!救急車ダッ!」と指さして喜んだのだ。それを聞いて、僕の動揺は少しは、治まったのを覚えている。三十年以上経った今も、次男の右眉から瞼にかけて、そのときの傷跡が残っている。その傷を見るたびに、僕は次男に『悪いことをした』と謝罪の念でいっぱいになる。一言も口には出してはいないのだが・・・。

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